高齢者の気管支喘息

「気管支喘息は子供の病気である」と思っていらっしゃる方、間違いではありませんが十分ではありません。気管支喘息は幼少期に発症することが多いことはよく知られていますが、それ以外の各年齢で発症し、今回の話題である高齢になってからも決して少なくはありません。まずは下のグラフをご覧下さい。これ(The Global Asthma Report 2014より引用)は年齢層での気管支喘息による健康被害の程度を表したものですが、若年者より高齢者に健康被害が大きいことがわかります。すなわち「気管支喘息は高齢者にも多い」と言えます。

 

 筆者が医者になった頃には年間7000-8000人の人が気管支喘息のために亡くなっていましたが、その後治療が改良され、それが普及し、現在では死亡する人は年間1500人未満に減少しています。その反面、気管支喘息で亡くなる人の多くが高齢者であることが現在の問題の一つとなっています。このように気管支喘息は高齢者にも多く、重要な病気の一つです。

 気管支喘息の症状は咳や喘鳴、呼吸困難が有名ですが、高齢者ではこれらの症状が余り目立たずにわかりにくい場合もあります。「動くと息切れがする」ことや、「何かするときつい」ことだけが症状であることもあります。これらの症状が「年のせいだろう」と自己判断して病気が見逃されていることがあるので注意が必要です。喫煙しない人で他の原因が見当たらないのに、どうも同年代の人よりも息切れがするといった場合には考えておくべき病気だと思います。

 先ほど気管支喘息の治療が改良されたことに言及しましたが、気管支喘息には吸入ステロイド薬が良く効きます。これは高齢者でもほぼ同じです。最近では吸入ステロイド薬と気管支拡張薬の合剤もあり、それを使うことで2種類の薬剤が同時に気道に到達して効果を発揮し、とても有効です。しかしながら、時には何らかの理由でうまく吸入ができずに十分効果が得られない場合もあります。気管支喘息とわかっていて吸入ステロイド薬の効果が乏しい場合には、適切に吸入できているか、吸入回数や吸入の仕方などを確認することをお勧めします。最近では吸入薬の種類も増え、いろいろある中から選べるようになっていますので、薬剤や使用法が自分にあったものを使うようにしたいところです。吸入薬だけでは十分ではない場合には内服薬も組み合わせることで多くの患者さんが十分コントロールできます。

これまで気管支喘息の適切な治療をしていなかった患者さんが吸入ステロイドなどの治療を開始して治療効果が得られた場合には「咳や息切れが減って外に出てみようと思うようになった」「作業の途中で休まなくてよくなった」など、劇的な改善が得られ、より快適な生活につながることもありますので、是非適切な診断と治療を受けていただきたいと思います。